画家>彫刻家

アレント『人間の条件』(志水速雄訳・ちくま学芸文庫)を何度目かの再開。読み終わるのかどうか不安になるのも通り越し、結構楽しめている…気がする。

ともかく、いまだ第三章「労働」なんであるが、結構面白い記述があった。古代ギリシアにおいて労働がいかに軽蔑されたかについて述べられている。面倒なので詳述は避けるけれども、そこからさらに、労力の多い仕事に従事している方がより卑しいという価値観が生まれたようである。

 

アリストテレスは、「肉体を非常に劣悪なものにする」ような職業を最も卑しいものと呼んだ。(P.136)

 

へー。で、上記の引用に以下が続く。

 

アリストテレスはバナウソイを市民だと認めなかったけれども、羊飼いと画家についてはそれをみとめたであろう(農民と彫刻家の場合は認められなかった)。(同上)

 

つまり、羊飼い>農民であり、画家>彫刻家であるらしい。この一文には注がついていて(P.199)、アレントはブルクハルトとノイラートを参照して、画家>彫刻家という価値観は何世紀も続き、ルネサンスあたりでも見られると述べている。現代では中々お目にかかれない価値観である。今なら、完成した作品の「質」が全てであり、かかった労力の多寡などは関係ないといったところが、教科書的な答えだろうか?

美術史に全く明るくない自分としては、ただただ「へー」と言うくらいしか出来ないのだが、このアレントの説がどれほど美術史家たちに受け入れられているものなのか、ちょっと調べてみたいとは思う。もしかして、常識?